要だとは考へられない。塀は邸の境を分つだけに役立てばよいから、自由に内外の見通せる鉄柵か石の金剛柵《こんがうさく》かを設けて置けば十分である。欧洲では帝王の家までがバツキンガム宮、※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ルサイユ宮のやうに鉄柵の間から自由に覗かれるやうに造られて居る。維納の宮殿などは全く開放的で、其中を民衆が自由に馬車や自動車を駆つて横断して居る。私は靖国神社のやうな国民の崇拝的記念建築がなつかしくない排他的な重苦しい塀で掩護されて居るのを見ると、折々一種の不快を覚えるのである。
若し私の家も隣の塀が清楚な鉄柵か石の柵であつたら風通しが好くなるであらう。風と日光とが好く通れば隣の庭に藪蚊が発生して私の家族を悩ませることも減じるであらう。また鉄柵の間から隣の立派な庭が覗かれて、どんなに私達の目と心とを爽かにするであらう。偶には双方の家族が塀越しに微笑と挨拶とを交換して隣同志の人情を流露し合ふ機会も生じるであらう。少くとも隣の犬が私達の顔を見知つて夜中に吠えたりすることが無くなるであらう。
一体に貴族や富豪で宏大な庭園や、立派な建築や、珍しい沢山の美術品やを所有して居る家
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