白い事をいわれました。「男の方《かた》に自由選択の権利ある現在の状態では夫婦になって始めてその妻に不満を抱《いだ》きこれを虐待するなどという事は、取《とり》も直さず自分を辱《はずか》しめるものではありませんか。」これは尤もな御説だと存じます。如何にも一般の家庭では男子の権利がまだ偏《かたよ》って強い今日、男が微弱な妻を圧服する事は容易でありそうなものですのに、妻に逃《にげ》を打たれるというのは男の敗北として恥ずべき一大事でしょう。藤井軍医正の場合は陸軍と音楽との衝突でなく、陸軍が女に負けたとも申すべきでありませんか。
秋子女史はまた「某実業家は常常子弟に向い、世に処して成功しようと思うには女房に惚《ほ》れなくては不可《いか》んと言われたそうですが、誠に味《あじわ》うべき言葉で、気に食わぬ点はなるべく寛大に見て、自分の妻以外世間に女はないというほどに取扱ってこそ家庭は円満に参るものだろうかと存じます」といわれました。これは反対に男を柔順にして妻に服従させようという意気込が見えて、女史の内心を包まず語られたのが気持の宜しい事です。しかし男子の非道に反抗してこういう逆襲の態度に出《い》で
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