年月の経験で今日に及んだのですから、一朝にして人間の新しい嗜好《しこう》を促すような混食や代用食が発明されようとは思われません。それに、混食や代用食の実行を以て今日の食料品の価格騰貴を切り抜けようとするのは全く見当違いです。物価の調節は政治問題であり、経済問題であり、また政治家と資本家との道徳問題、乃至《ないし》人生観の問題です。それらの方面に思い切った改革を要求せず、物価の暴騰を放任して置いて、唯だ大多数の経済的弱者である無産階級の人間に、その物質生活を退嬰《たいえい》し得るだけ退嬰せよ、飢えた動物のように如何なる不味《まず》い物でも取って露命だけを繋《つな》げというに等しい施設は愛をも聡明をも欠いた非人道的な施設だと思います。今日は一方に一人前の料理に百金を費す暴富階級が存在しているのです。それに対して一方に混食や代用食を取らねばならぬという大多数の人間のあるのは何たる偏頗《へんぱ》な社会状態でしょう。指導者たる婦人たちがこういう社会状態の矛盾と偏頗とに対して改造運動を起すことなく、強い者の放縦《ほうしょう》と不仁非道とを許容して置いて、私たち無産階級の弱い者ばかりを、節倹や、過労
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