専ら種族の保存と生理的欲望の満足とに終始する動物的生活を脱し、人為の理想と努力とに依って現に見るような燦爛《さんらん》とした、複雑な文化生活を創造するに到ったことは、如何にも万物の霊長として自負するに足ることだと思います。既に人間の生活が創造に創造を重ねて文化の内容を充実し、それを以て自他の幸福を増進する所に第一の価値を置くものであるとすれば、生活に要するあらゆる条件は、すべてこの第一の価値を実現する過程以外の何物であってもならないのは当然です。
 創造は過去と現在とを材料としながら新しい未来を発明する能力です。この能力は個人のものです。個性的のものです。多数はこれを助長し、併せてこれを受容し、これと同化する作用はあっても、多数が或一つの新しい文化内容を創造するということは、厳格なる意味において全く不可能なことだと思われます。
 人格の中心となるものは実にこの創造能力を推《お》さねばなりません。もしこれを欠くならば、人は模倣同化の消極的生活にのみ終始して、自己の生存を主張する理由が薄弱になります。この創造能力を用いて、自存、自労、自活、自営の生活を建設してこそ初めて堅実な積極的の文化生
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