とは考えません。私はそれを、あるいは私の個性の自発を促した機縁として述べるか、あるいは私の議論の旁証《ぼうしょう》として述べるかに過ぎないのです。個性の尊厳を保って第一義の生活をしようと心掛ける者には、常に自ら世界の中心となって、何程かの文化価値を、自らの立場と、自らの天分との能《よ》くする限りにおいて創造しようと努力します。その人は世界の大勢に対して常に敏感ですが、それを批判し取捨して自己の所有とするには、常に出来る限りの沈着と聡明とを失いません。雷同や模倣に由って普通選挙を主張するように解釈する者は、軽浮なる自己を推して他人を忖度《そんたく》するものだと思います。
 それなら、普通選挙はどういう理由から個人の自発的要求として主張されるのですか。これに関する細論で最も参考となるものには、最近に佐藤丑次郎《さとううしじろう》博士が公にされた選挙権拡張論がありますから、私は唯だ茲《ここ》に根本となる理由だけを述べて私の意見を加えようと思います。
 人間は動物の如く単に「生きる」というものでなくて「より善く生きよう」とする所に特長があります。悠久な昔において、人間が自然の法則に引きずられて
前へ 次へ
全13ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング