ある。此処に夫婦が成り立つ。次いで父母子弟乃至社会。」「社会があれば当然社会の協同生活を円滑にするために治者被治者の組織が生ずる。また社会の基点たる個人の天分と教育とに由って智識、感情、意志の差と職業の別とを生ずる」「個人としても社会人としても人はあらゆる幸福を享得せねばならぬ。幸福の最上なるものは個性を発揮して我が可能を尽すと共に、互に他の個性を理解し合い鑑賞し合うことである。」かようなる問題は古往今来の大問題であって容易に解決しがたい事ではあるが、今日世界の文明人は皆この問題に触れて、或者は懐疑に陥り、或者は解決の曙光《しょこう》を認めたといっている。これは冷たい学究の哲学問題ではなくて、御互自身の上に切実な根本問題である。

 こういう問題は遽《にわ》かに解決を得なくてもよい。婦人の頭脳がかかる根本問題に注意し、折に触れて識者に質《ただ》し、父母、良人、兄弟、友人とこれについて研究し合うという程度に達すれば、自然読書の習慣も生じ、智識も聡明となり、感情も豊潤を増し、在来の婦人の悪習たる猜疑嫉妬《さいぎしっと》の小感情や、低い物欲や、虚飾に浮身をやつす心も一洗せられ、良人の機嫌を取
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