ある。また思索し、歌い、原稿を書き、衣と食とを工夫し、その他あらゆる心的労働と体的労働とに服する一人の人間である。私はそれらの一事一事を交代に私の生活の中心として必要である限りそれにじっと面して専心することを私の生活の自然な状態としている。
私は母性ばかりで生きていない。母性を中心として生きているように見える時にも私の自我には前に挙げたような私の他の諸性が、丁度人が現に見守っている一つの星を繞《めぐ》って無数の星が群を成しているように廻転している。そうしてそれらの諸性の一つが次の時には現在の中心である母性に代って私の生活の中心となり、更にまた他のものが次ぎ次ぎに代って行く。それらの無数に起伏して異った中心を作る諸性が互に輔《たす》け合い、埋め合せ、もしくは互に撥《は》ね返し、闘争して、不断の流転を続けることに由って私の自我は成長し、私の生活は開展する。
もし私が自分の生活状態に一一名を附けるなら無数の名が要《い》るであろう。母性中心、友性中心、妻性中心、労働性中心、芸術性中心、国民性中心、世界性中心……それは煩雑に堪えない上に殆ど無用の命名であるほどに私の生活の中心は相対的無限なも
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