りやすいことである。例えば女が低級な名誉心――栄誉心――を中心として常に行動するような場合は決してそれが女自身の上に真実の幸福を持ち来《きた》さない。かえって女自身の生活を人間の根本欲求に反して不幸に導くものである。こういう場合には人間の本務を標準としてその悪性な中心要素を批判し、それを一掃して、他の必要有益な中心要素の起伏する堅実な生活状態に就《つ》かねばならない。
私は母となった時に初めて母としての実際生活が私の上に新しく創造されて来たのを経験した。そうして自分の子供を育てることに私の注意が集る度ごとに其処に母性が私の生活の中心要素となり、私の自我の全部を統率しているのを経験した。私の子供が私の外になくて私の自我の中に愛を以て抱かれているのを明かに見た。全く私の子供は私の内に浸透して不可分の関係になっている。私は私のように子供のある女に取って母性が重要なものであることを、子供を持つ他の婦人たちと共に実感することが出来た。
しかし私が母となったことは決して絶対的ではなかった。子供の母となった後にも、私は或一人の男の妻であり、或人人の友であり、世界人類の一人であり、日本臣民の一人で
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