に統一されている。食べることも、読むことも、働くことも、子を産むことも、すべてより好く生きようとする人間性の実現に外ならない。
或一事を行う度に生活の中心がその一事に移動して焦点を作り、他の万事は縁暈《えんうん》としてそれを囲繞《いじょう》している。こうして人間性が無限無数にその中心を新しく変えて行けばこそ人間の生活が活気を帯び、機勢《はずみ》を生じ、昨日に異った意義と価値を創造して進むことが出来る。これが人間生活の堅実な状態である。そうして人間にはこれと齟齬《そご》する病的な状態がある。即ち物を食べていながらこの事に熱中しがたくて食べている物の味を享楽することが出来ないような状態である。何事も沈滞していて中心となるまでに焦点を作らない状態である。それが人間の根本欲求と分裂している病的な状態であることは人間がその状態に満足しないのみか、それを不純、怠惰、卑怯、姑息、頽廃、堕落というような自覚を以て自ら憎悪し、自ら愧《は》じ、自ら苦《くるし》み、自ら出来るだけそれを脱しようとして焦燥《あせ》るので明かである。
今一つの病的な状態がある。しばしば無用または有害な或一事に生活の中心が集ま
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