全部である。
私の考察が間違っていないなら、この唯一の根本欲求には人間の万事が含まれている。トルストイ翁の言われた「種族の存続」もその万事の内の重要な一大事として私には見られる。そうして人類の本務――人類の幸福の増加――には総ての人間が平等に参加し、男女の性に由って外面の状態に差別はあっても、本質的には男も女も平等の人間として人間性の完成に力を協《あわ》せているように私には見られる。勿論世の中には男女の協力が不権衡になり、中には殆ど男女いずれかの力の加わらない事実さえ存在している。平等を欠いたそれらの事実は総て「人類の幸福の増加」のために無用または有害な事実ばかりであり、それに由って世界の調子を失い、進歩を遅滞し、悲惨を簇生《そうせい》している。例えば男性ばかりで計画された戦争という殺人事業のようなものがそれである。
人間の万事は男も女も人間として平等に履行することが出来る。それを男性女性という形式の方面から見れば、その二つの異った形式に従っていろいろの異った状態が履行の上にあるいは生じたり生じなかったりするだけである。具体的に言えばトルストイ翁は男は種族の存続を履行することに与《
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