あずか》り得ないように言われたが、それは何人《なんぴと》にも明白な誤謬である。人間は単性生殖を為《な》し得ない。男は常に種族の存続に女と協力している。この場合に唯だ男と女とは状態が異るだけである。男は産をしない、飲ますべき乳を持たないと言う形式の方面ばかりを見て、男は種族の存続を履行し得ず、女のみがそれに特命されていると断ずるのは浅い。性情の円満な発達を遂げた父母の間に子に対する愛が差別のないのを考えても内面的には男女の協力が平等であることが想われる。
 私はこうしてトルストイ翁のいわゆる「物事の本性」を私の力の及ぶ限り透察した。そうして私は人間がその生きて行く状態を一人一人に異にしているのを知った。その差別は男性女性という風な大掴《おおづか》みな分け方を以て表示され得るものでなくて、正確を期するなら一一の状態に一一の名を附けて行かねばならず、そうして幾千万の名を附けて行っても、差別は更に新しい差別を生んで表示し尽すことの出来ないものである。なぜなら人間性の実現せられる状態は個個の人に由って異っている。それが個性といわれるものである。健《すこや》かな個性は静かに停まっていない、断えず流
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