し一刹那も子供から外に心を移さずにいて生涯をそれで貫徹することの出来る女があるなら知らぬこと、人間性は無限の欲求を生み、その欲求の一つ一つをそれが自分の成長に貢献するものである限り、尊重して忠実に履行するのが人間生活の自然であるとするなら、誰も一つの欲求に偏してはいられないはずである。
世間には自分の生活に公と私、主と客、真実と方便、本務と余技、第一義と第二義という風な差等を設けている人たちが少くない。私も近頃までは漫然とそういう二元的な物の見方を模倣していた。けれども真に現在に生きようとする自覚が明確の度を増して行くに従い、「人類の幸福の増加」という人間の本務――私の本務――に役立つ限り、万事が一様に自分の真実の生活であり、第一義の生活であるように感ぜられて来た。以前は恋愛や、芸術や、学問や、宗教や、社会改良事業などというものばかりを人間の第一必要品のように思い、みずから衣食住の実際問題に困っていながら、かえって逃避的な支那賢人の虚偽な告白などに欺《だま》されて、その衣食住などを第二義の問題のように誤解していたのであったが、近頃はどれも私に取って同じく第一義の価値を持つようになって
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