》へ廻られる筈であるから、それを待つより巴里へ行かれる方が好いであらうと弟子は云ふのであつた。自分は良人と相談をして夫人への土産だけを出し、その弟子に托して名殘惜しい製作室を出て引き返さうとした。
「一寸お待ち下さい」
と云ひながらその人は又自分達を中門の中まで案内して置いて母家の窓の下へ寄つて夫人に聲を掛けた。自分はこんな事をも面白くもゆかしくも思つた。大藝術家の夫人が窓越しに弟子の話すのを許すと云ふさばけた所作《しよさ》をさう思ふのであつた。此處からはずつと向うが見渡される。起伏した丘にあるムウドンの家竝《やなみ》や形の好い陸橋なども見える。此村は美觀村と云ふのださうである。
「奧さんがお目に掛りますからお待ち下さい」
と弟子は云つて、又自分達をもとの製作室に伴《ともな》つた。そして前よりは一層|打解《うちと》けた調子で男達と弟子は話すのであつた。自分はまた男達と一緒に先生の未成品を眺めて居る事が出來るのであつた。まだ外に男の半身像や樣樣の石膏像が十ばかりも彼方此方に置かれてあつた。歸り途を聞くと、
「船にお乘りになるのが好いでせう。奧さんがお許し下すつたら私がその船乘場までお
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