ら2字下げ]
眞赤な土がほろほろと……
だらだら坂の二側《ふたかは》に
アカシヤの樹のつづく路。

あれ、あの森の右の方、
飴色をした屋根と屋根、
あの間から群青《ぐんじやう》を
ちらと抹《なす》つたセエヌ川。

涼しい風が吹いて來る、
マロニエの香と水の香と。

之が日本の畑なら
青い「ぎいす」が鳴くであろ。
黄ばんだ麥と雛罌粟《コクリコ》と、
黄金にまぜたる朱の赤さ。

誰《た》が挽き捨てた荷車か、
眠い目をして路ばたに
じつと立つたる驢馬《ろば》の影。

「ロダン先生の別莊は。」
問ふ二人より側に立つ
キモノ姿のわたしをば
不思議と見入る野良男《のらをとこ》。

「ロダン先生の別莊は
ただ眞直に行きなさい。
木の間からその庭の
風見車《かざみぐるま》が見えませう。」

巴里から來た三人の
胸は俄にときめいた。
アカシヤの樹のつづく路。
[#ここで字下げ終わり]

 やつと其道の盡きる處まで來た。其處は自分達の今乘つて來たのとは異ふ別の汽車道の踏切である。そして一層人氣のない寂しい道へ自分達は出た。二町程來た時前を行く人を呼んで松岡氏が尋ねると、ロダン先生の邸は直ぐ此處の左で、其處
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