う。
若し肉體的のものとするなら、男も女も絶對に再婚してはならないことになるでせう。のみならず、女が他から暴力で身を汚されても、男が女の誘惑に由つて一時的の性交を遂げても、もう其男女の貞操は破壞されたことになつて、一生結婚は出來ないでせう。親兄弟のためとか、其他一身一家の餘儀ない事情のためとかで娼婦の境遇に在つた女などは永久に背徳者として泣かねばならないでせう。精神的に悔ゆる者は其罪が除かれると云ふやうな美くしい感情は背徳者を曲庇するものとして許されないことになるでせう。また肉體さへ一人の異性を守つて居れば、愛情は他の異性に向つて居ても差支ないと云ふやうな矛盾したことにもなるでせう。
之に反して、貞操は靈肉一致のものとするなら、さう云ふ道徳が現在の社會制度のままで實現されるでせうか。精神的にも肉體的にも唯一を守る結婚と云ふものは戀愛結婚以外には遂げられない譯ですが、戀愛の自由を許されて居ないと共に、戀愛の自由を享得するだけの人格教育が施されて居ない現代に、靈肉一致の貞操を道徳として期待することは蒔かずに刈らうとする類ではありませんか。
現代の結婚は太抵の場合男女の一方が一種の
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