貞操は道徳以上に尊貴である
與謝野晶子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)眞面目《まじめ》
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 私は貞操を最も尊重し、貞操を最も確實堅固な基礎の上に据ゑたいために此一文を書きます。
 今年は貞操と云ふことが問題になつて、女子の貞操ばかりでなく、男子の貞操と云ふやうなことまでが論ぜられるやうになりました。識者階級が斯う云ふ問題に眞面目な反省を取るに到つたことは勿論喜ばねばなりませんが、貞操を單に道徳として維持して行かうとすることの可否は容易に決定し難い宿題です。まだまだ之から討議を重ねて愼重に決定すべき事柄です。然るに何の新しい解釋も加へないで、之を昔の儘に道徳として強要しようとする態度の議論が多いのは甚だ宜しくないと思ひます。私達は貞操道徳に對して最も眞面目《まじめ》に幾多の疑惑を感じて居ます。
 私達はあらゆる虚僞と、あらゆる壓制と、あらゆる不正と、あらゆる不幸とから脱れて、最も眞實な、最も自由な、最も正確な、併せて最も幸福な生活を實現したいと渇望して居ります。私達はこの實感を基礎として一切の問題を整調して行く外はありません。
 たとひ昔は人間の生
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