糖|水《みづ》を造るので家の中が忙しくなる。
『旦那様、ありがたう。御寮人《ごれうにん》様、ありがたう。』[#改行を挿入]
その世話人が四五人家の中へ入つて来て父母に挨拶をした。揃《そろひ》の浴衣《ゆかた》に白い縮《ちぢみ》の股引《ももひき》を穿《は》いて、何々浜と書いた大きい渋団扇《しぶうちは》で身体《からだ》をはたはたと叩いて居る姿が目に見える様である。白地の明石縮《あかしちぢみ》に着更《きか》へると、別家の娘が紅の絽繻珍《ろしゆちん》の帯を矢の字に結んでくれた。塗骨《ぬりぼね》の扇を差した外に桐の箱から糸房《いとぶさ》の附いた絹団扇《きぬうちは》を出して手に持たせてくれた。店へ行く廊下を通る時大きい銀の薄《すゝき》のかんざしの鈴が鳴つた。菊菱《きくびし》の紋を白く抜いた水色の麻の幕から日が通つて、金の屏風にきらきらと光つて居た。従兄《いとこ》と兄はその前へ置いた碁盤で五目並べをして居る。将棋盤の廻りには十人程の丁稚《でつち》が皆|集《あつま》つて居た。花毛氈の上であるから並んだその白足袋が美くしく見える。九谷焼の花瓶に射干《ひあふき》と白い夏菊《なつぎく》の花を投込《なげこみ》に
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