消え残る屋根の雪の色に
近き家家《いへいへ》は石造《いしづくり》の心地し、
神田、日本橋、
遠き街街《まちまち》の灯《ひ》のかげは
緑金《りよくこん》と、銀と、紅玉《こうぎよく》の
星の海を作れり。
電車の轢《きし》り………
飯田町《いひだまち》駅の汽笛………
ふと、われは涙ぐみぬ、
高きモンマルトルの
段をなせる路《みち》を行《ゆ》きて、
君を眺めし
夕《ゆふべ》の巴里《パリイ》を思ひ出《い》でつれば。
年末
あわただしい師走《しはす》、
今年の師走《しはす》
一箇月《いつかげつ》三十一日は外《よそ》のこと、
わたしの心の暦《こよみ》では、
わづか五六日《ごろくにち》で暮れて行《ゆ》く。
すべてを為《し》さし、思ひさし、
なんにも云《い》はぬ女にて、
する、する、すると幕になる。
市上
騒音と塵《ちり》の都、
乱民《らんみん》と賤民《せんみん》の都、
静思《せいし》の暇《いとま》なくて
多弁の世となりぬ。
舌と筆の暴力は
腕の其《そ》れに劣らず。
ここにして勝たんとせば
唯《た》だ吠《ほ》えよ、大声に吠《ほ》えよ、
さて猛《たけ》く続けよ。
卑しきを忘れし
前へ
次へ
全250ページ中95ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング