高い庇《ひさし》の陰にある
円《まる》い小窓《こまど》の摺硝子《すりがらす》、
誰《たれ》やら一人《ひとり》うるみ目に
空を見上げて泣くやうな、
それが寂《さび》しく気にかかる。
裏口へ来た男
台所の閾《しきゐ》に腰すゑた
古《ふる》洋服の酔《ゑ》つぱらひ、
そつとしてお置きよ、あのままに。
ものもらひとは勿体《もつたい》ない、
髪の乱れも、蒼《あを》い目も、
ボウドレエルに似てるわね。
髪
つやなき髪に、焼鏝《やきごて》を
誰《た》が当《あ》てよとは云《い》はねども、
はずみ心に縮らせば、
焼けてほろほろ膝《ひざ》に散り、
半《なかば》うしなふ前髪の
くちをし、悲し、あぢきなし。
あはれと思へ、三十路《みそぢ》へて
猶《なほ》人|恋《こ》ふる女の身。
磯にて
浜の日の出の空見れば、
あかね木綿の幕を張り、
静かな海に敷きつめた
廣重《ひろしげ》の絵の水あさぎ。
(それもわたしの思ひなし)
あちらを向いた黒い島。
九段坂
青き夜《よ》なり。
九段《くだん》の坂を上《のぼ》り詰めて
振返りつつ見下《みお》ろすことの嬉《うれ》しや。
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