うらなく明《あ》くる春のみじか夜《よ》。
牡丹
散りがたの赤むらさきの牡丹《ぼたん》の花、
青磁の大鉢《おほばち》のなかに幽《かす》かにそよぐ。
侠《きやん》なるむだづかひの終りに
早くも迫る苦しき日の怖《おそ》れを
回避する心もち……
ええ、よし、それもよし。
女
女、女、
女は王よりもよろづ贅沢《ぜいたく》に、
世界の香料と、貴金属と、宝石と、
花と、絹布《けんぷ》とは女こそ使用《つか》ふなれ。
女の心臓のかよわなる血の花弁《はなびら》の旋律《ふしまはし》は
ベエトオフエンの音楽のどの傑作にも勝《まさ》り、
湯殿に隠《こも》りて素肌のまま足の爪《つめ》切る時すら、
女の誇りに印度《いんど》の仏も知らぬほくそゑみあり。
言ひ寄る男をつれなく過ぐす自由も
女に許されたる楽しき特権にして、
相手の男の相場に負けて破産する日も、
女は猶《なほ》恋の小唄《こうた》を口吟《くちずさ》みて男ごころを和《やはら》ぐ。
たとへ放火《ひつけ》殺人《ひとごろし》の大罪《だいざい》にて監獄に入《い》るとも、
男の如《ごと》く二分刈《にぶがり》とならず、黒髪は墓のあなたまで浪《な
前へ
次へ
全250ページ中92ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング