、わたしは何《な》んとすべきぞ。
猫
衣桁《いかう》の帯からこぼれる
艶《なま》めいた昼の光の肉色《にくいろ》。
その下に黒猫は目覚《めざ》めて、
あれ、思ふぞんぶんに伸びをする。
世界は今、黒猫の所有《もの》になる。
或手
打つ真似《まね》をすれば、
尾を立てて後《あと》しざる黒猫、
まんまろく、かはゆく……
けれど、わたしの手は
錫箔《すゞはく》のやうに薄く冷たく閃《ひら》めいた。
おお、厭《いや》な手よ。
通り雨
ちぎれちぎれの雲見れば、
風ある空もむしやくしやと
むか腹《ばら》立てて泣きたいか。
さう云《い》ふ間《ま》にも、粒なみだ、
泣いて心が直るよに、
春の日の入《い》り、紅《べに》さした
よい目元から降りかかる。
濡《ぬ》らせ、濡《ぬ》らせ、
我髪《わがかみ》濡《ぬ》らせ、通り雨。
春の夜
二夜《ふたよ》三夜《みよ》こそ円寝《まろね》もよろし。
君なき閨《ねや》へ入《い》ろとせず、
椅子《いす》ある居間の月あかり、
黄ざくら色の衣《きぬ》を著《き》て、
つつましやかなうたた臥《ふ》し。
まだ見る夢はありながら、
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