の書くやうな
おちついた、抒情詩的な物言ひ、
また歌麿《うたまろ》の版画の
「上の息子」の身のこなし。
片時
わが小《ち》さい娘の髪を撫《な》でるとき、
なにか知ら、生れ故郷が懐《おも》はれる。
母がこと、亡き姉のこと、伯母がこと、
あれや、其《そ》れ、とりとめもない事ながら、
片時《かたとき》は黄金《こがね》の雨が降りかかる。
春昼《しゆんちう》
三月《さんぐわつ》の昼のひかり、
わが書斎に匍《は》ふ藤《ふぢ》むらさき。
そのなかに光《ひかる》の顔の白、
七瀬《なゝせ》の帯の赤、
机に掛けた布の脂色《やにいろ》、
みな生生《いきいき》と温かに……
されど唯《た》だ壺《つぼ》の彼岸桜《ひがんさくら》と
わが姿とのみは淡く寒し。
君の久しく留守なれば
静物の如《ごと》く我も在るらん。
雪
障子あくれば薄明り、
しづかに暮れるたそがれに、
をりをりまじる薄雪は
錫箔《すゞはく》よりもたよりなし。
ほつれた髪にとりすがり、
わたしの顔をさし覗《のぞ》く
雪のこころの寂《さび》しさよ。
しづくとなつて融《と》けてゆく
雪のこころもさうであらう、
まして
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