て挽《ひ》き、
車となりてわれを運ぶ。
わが名は「真実」なれども
「力」と呼ぶこそすべてなれ。


    走馬灯

まはれ、まはれ、走馬灯《そうまとう》。
走馬灯《そうまとう》は幾たびまはればとて、
曲もなき同じふやけし馬の絵なれど、
猶《なほ》まはれ、まはれ、
まはらぬは寂《さび》しきを。

桂氏《かつらし》の馬は西園寺氏《さいをんじし》の馬に
今こそまはりゆくなれ、まはれ、まはれ。


    空しき日

女、三越《みつこし》の売出しに行《ゆ》きて、
寄切《よせぎれ》の前にのみ一日《ひとひ》ありき。
帰りきて、かくと云《い》へば、
男は独り棋盤《ごばん》に向ひて
五目並べの稽古《けいこ》してありしと云《い》ふ。
(零《れい》と零《れい》とを重ねたる今日《けふ》の日の空《むな》しさよ。)
さて男は疲れて黙《もだ》し、また語らず、
女も終《つひ》に買物を語らざりき。
その買ひて帰れるは
纔《わづか》に高浪織《たかなみおり》の帯の片側《かたかは》に過ぎざれど。


    麦わら

それは細き麦稈《むぎわら》、
しやぼん玉を吹くによけれど、竿《さを》とはしがたし、
まして、まして柱とは
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