されど、麦稈《むぎわら》も束として火を附《つ》くれば
ゆゆしくも家《いへ》を焼く。
わがをさな児《ご》は賢し、
束とはせず、しやぼん玉を吹いて行《ゆ》くよ。


    恋

一切を要す、
われは憧《あこが》るる霊《たましひ》なり。
物をしみな為《せ》そ、
若《も》し齎《もたら》す物の猶《なほ》ありとならば。――
初めに取れる果実《このみ》は年経《としふ》れど紅《あか》し、
われこそ物を損ぜずして愛《め》づるすべを知るなれ。


    対話

「常に杖《つゑ》に倚《よ》りて行《ゆ》く者は
その杖《つゑ》を失ひし時、自《みづか》らをも失はん。
われは我にて行《ゆ》かばや」と、われ語る。
友は笑ひて、さて云《い》ひぬ、
「な偽《いつは》りそ、
つとばかり涙さしぐむ君ならずや、
恋人の名を耳にするにも。」


    或女

古き物の猶《なほ》権威ある世なりければ
彼《かれ》は日本の女にて東の隅にありき。
また彼《かれ》は精錬せられざりしかば
猶《なほ》鉱《あらがね》のままなりき。
みづからを白金《プラチナ》の質《しつ》と知りながら……


    爪

物を書きさし、思ひさし、
広東
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