《くわん》をゑがきて、
箪笥《たんす》てふ物を教へぬ。
我子《わがこ》らは箪笥《たんす》を知らず、
不思議なる絵ぞと思へる。


    寂しき日

あこがれまし、
いざなはれまし、
あはれ、寂《さび》しき、寂《さび》しき此《この》日を。
だまされまし、賺《すか》されまし、
よしや、よしや、
見殺《みごろ》しに人のするとも。


    煙草

わかき男は来るたびに
よき金口《きんくち》の煙草《たばこ》のむ。
そのよき香り、新しき
愁《うれへ》のごとくやはらかに、
煙《けぶり》と共にただよひぬ。
わかき男は知らざらん、
君が来るたび、人知れず、
我が怖《おそ》るるも、喜ぶも、
唯《た》だその手なる煙草《たばこ》のみ。


    百合の花

素焼の壺《つぼ》にらちもなく
投げては挿せど、百合《ゆり》の花、
ひとり秀《ひい》でて、清らかな
雪のひかりと白さとを
貴《あて》な金紗《きんしや》の匂《にほ》はしい
※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]エルに隠す面《おも》ざしは、
二十歳《はたち》ばかりのつつましい
そして気高《けだか》い、やさがたの
侯爵夫人《マルキイズ》にもたとへよう。

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