突かんとすなる
その胸に、夜《よる》としなれば、
額《ぬか》よせて、いとうら安《やす》の
夢に入《い》る人も我なり。
男はた、いとしとばかり
その胸に我《わ》れかき抱《いだ》き、
眠ること未《いま》だ忘れず。
その胸を今日《けふ》は仮《か》さずと
たはぶれに云《い》ふことあらば、
我《わ》れ如何《いか》に佗《わび》しからまし。


    鴨頭草《つきくさ》

鴨頭草《つきくさ》のあはれに哀《かな》しきかな、
わが袖《そで》のごとく濡《ぬ》れがちに、
濃き空色の上目《うはめ》しぬ、
文月《ふづき》の朝の木《こ》のもとの
板井のほとり。


    月見草

はかなかる花にはあれど、
月見草《つきみさう》、
ふるさとの野を思ひ出《い》で、
わが母のこと思ひ出《い》で、
初恋の日を思ひ出《い》で、
指にはさみぬ、月見草《つきみさう》。


    伴奏

われはをみな、
それゆゑに
ものを思ふ。

にしき、こがね、
女御《にようご》、后《きさき》、
すべて得《え》ばや。

ひとり眠る
わびしさは
をとこ知らじ。

黒きひとみ、
ながき髪、
しじに濡《ぬ》れぬ。

恋し、恋し、
はらだたし、
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