《つね》は素知《そし》らぬ振《ふり》ながら、
刹那《せつな》に胸の張りつめて
しやうも、やうも無い日には、
マグネシユウムを焚《た》くやうに、
機関の湯気の漏るやうに、
悲鳴を上げて身もだえて
あの白鳥《はくてう》が死ぬやうに。


    夏の宵

いたましく、いたましく、
流行《はやり》の風《かぜ》に三人《みたり》まで
我児《わがこ》ぞ病める。
梅霖《つゆ》の雨しとどと降るに、汗流れ、
こんこんと、苦しき喉《のど》に咳《せき》するよ。
兄なるは身を焼く※[#「執/れっか」、100−上−6]《ねつ》に父を呼び、
泣きむづかるを、その父が
抱《いだ》きすかして、売薬の
安知歇林《アンチピリン》を飲ませども、
咳《せき》しつつ、半《なかば》ゑづきぬ[#「ゑづきぬ」は底本では「えづきぬ」]。
あはれ、此夜《このよ》のむし暑さ、
氷ぶくろを取りかへて、
団扇《うちは》とり児等《こら》を扇《あふ》げば、
蚊帳《かや》ごしに蚊のむれぞ鳴く。


    如何に若き男

如何《いか》に若き男、
ダイヤの玉《たま》を百持てこ。
空手《むなで》しながら採《と》り得《う》べき
物とや思ふ、あはれ愚かに。
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