御寺《おてら》の庭の塀の内《うち》、
鳥の尾のよにやはらかな
青い芽をふく蘇鉄《そてつ》をば
立つて見上げたかなしさか。
御堂《おだう》の前の十《とを》の墓、
仏蘭西船《フランスぶね》に斬《き》り入《い》つた
重い科《とが》ゆゑ死んだ人、
その思出《おもひで》のかなしさか。
いいえ、それではありませぬ。
生れ故郷に来《き》は来《き》たが、
親の無い身は巡礼の
さびしい気持になりました。
自覚
「わたしは死ぬ気」とつい言つて、
その驚いた、青ざめた、
慄《ふる》へた男を見た日から、
わたしは死ぬ気が無くなつた。
まことを云《い》へば其《その》日から
わたしの世界を知りました。
約束
いつも男はおどおどと
わたしの言葉に答へかね、
いつも男は酔《ゑ》つた振《ふり》。
あの見え透《す》いた酔《ゑ》つた振《ふり》。
「あなた、初めの約束の
塔から手を取つて跳びませう。」
涼夜《りやうや》
場末《ばずゑ》の寄席《よせ》のさびしさは
夏の夜《よ》ながら秋げしき。
枯れた蓬《よもぎ》の細茎《ほそぐき》を
風の吹くよな三味線《しやみせん》に
曲弾《きよくびき》
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