やぼてんの
真赤《まつか》な花に目をやれば、
来る日で無いと知りながら
来る日のやうに待つ心。
無地の御納戸《おなんど》、うすい衣《きぬ》、
台湾竹《たいわんちく》のきやしやな椅子《いす》。
恋をする身は待つがよい、
待つて涙の落ちるほど。
馬場孤蝶先生
わたしの孤蝶《こてふ》先生は、
いついつ見ても若い方《かた》、
いついつ見てもきやしやな方《かた》、
品《ひん》のいい方《かた》、静かな方《かた》。
古い細身の槍《やり》のよに。
わたしの孤蝶《こてふ》先生は、
ものおやさしい、清《す》んだ音《ね》の
乙《おつ》の調子で話す方《かた》、
ふらんす、ろしあの小説を
わたしの為《た》めに話す方《かた》。
わたしの孤蝶《こてふ》先生は、
それで何処《どこ》やら暗い方《かた》、
はしやぐやうでも滅入《めい》る方《かた》、
舞妓《まひこ》の顔がをりをりに、
扇の蔭《かげ》となるやうに。
故郷[#「故郷」は底本では「故」]
堺《さかい》の街の妙国寺、
その門前の庖丁屋《はうちよや》の
浅葱《あさぎ》納簾《のれん》の間《あひだ》から
光る刄物《はもの》のかなしさか。
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