#ここで段組終わり]
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薔薇の陰影
(雑詩廿五章)
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[#ここから2段組]
屋根裏の男
暗い梯子《はしご》を上《のぼ》るとき
女の脚《あし》は顫《ふる》へてた。
四角な卓に椅子《いす》一つ、
側《そば》の小さな書棚《しよたな》には
手ずれた赤い布表紙
金字《きんじ》の本が光つてた。
こんな屋根裏に室借《まがり》する
男ごころのおもしろさ。
女を椅子《いす》に掛けさせて、
「驚いたでせう」と言ひながら、
男は葉巻に火を点《つ》けた。
或女《あるをんな》
舞うて疲れた女なら、
男の肩に手を掛けて、
汗と香油《かうゆ》の熱《ほて》る頬《ほ》を
男の胸に附《つ》けよもの。
男の注《つ》いだペパミント[#「ペパミント」は底本では「ペハミント」]
男の手から飲まうもの。
わたしは舞も知りません。
わたしは男も知りません。
ひとりぼつちで片隅に。――
いえ、いえ、あなたも知りません。
椅子の上
寒水石《かんすゐせき》のてえぶるに
薄い硝子《がらす》の花の鉢。
櫂《かひ》の形《かたち》のし
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