スチユ》 の破獄《らうやぶり》ですわ。


    蚊

蚊よ、そなたの前で、
人間の臆病心《おくびやうしん》は
拡大鏡となり、
また拡声器ともなる。
吸血鬼の幻影、
鬼女《きぢよ》の歎声《たんせい》。


    蛾

火に来ては死に、
火に来ては死ぬ。
愚鈍《ぐどん》な虫の本能よ。
同じ火刑《くわけい》の試練を
幾万年くり返す積《つも》りか。
蛾《が》と、さうして人間の女。


    朝顔

水浅葱《みづあさぎ》の朝顔の花、
それを見る刹那《せつな》に、
美《うつ》くしい地中海が目に見えて、
わたしは平野丸《ひらのまる》に乗つてゐる。
それから、ボチセリイの
派手な※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]イナスの誕生が前に現れる。


    蝦蟇《がま》

罷《まか》り出ましたは、夏の夜《よ》の
虫の一座の立《た》て者で御座る。
歌ふことは致しませねど、
態度を御覧下されえ。
人間の学者批評家にも
わたしのやうな諸君がゐらせられる。


    蟷螂《かまきり》

男性の専制以上に
残忍を極める女性の専制。
蟷螂《かまきり》の雌《めす》は
その雄《をす》を食べてしまふ。
種《しゆ
前へ 次へ
全250ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング