けれ、
いでや再びそれを結ばん。
われは戦《をのゝ》く身を屈《かゞ》めて
闇《やみ》の底に冷たき手をさし伸ぶ。
あな、悲し、わが推《お》しあての手探りに、
肉色《にくいろ》の被眼布《めかくし》は触るる由《よし》も無し。
とゆき、かくゆき、さまよへる此処《ここ》は何処《いづこ》ぞ、
かき曇りたる我が目にも其《そ》れと知るは、
永き夜《よ》の土を一際《ひときは》黒く圧《お》す
静かに寂《さび》しき扁柏《いとすぎ》の森の蔭《かげ》なるらし。
或る若き女性に
頼む男のありながら
添はれずと云《い》ふ君を見て、
一所《いつしよ》に泣くは易《やす》けれど、
泣いて添はれる由《よし》も無し。
何《なに》なぐさめて云《い》はんにも
甲斐《かひ》なき明日《あす》の見通され、
それと知る身は本意《ほい》なくも
うち黙《もだ》すこそ苦しけれ。
片おもひとて恋は恋、
ひとり光れる宝玉《はうぎよく》を
君が抱《いだ》きて悶《もだ》ゆるも
人の羨《うらや》む幸《さち》ながら、
海をよく知る船長は
早くも暴風《しけ》を避《さ》くと云《い》ひ、
賢き人は涙もて
身を浄《きよ》むるを知ると云《い》
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