刄先《はさき》を苛苛《いらいら》と
ふだんに尖《とが》らす冷たさ。
そして心は見て見ぬ振《ふり》……
凡俗の生《せい》の圧迫に
思ひきりぶつ突《つ》かつて、
思ひきり撥《は》ねとばされ、
ばつたり圧《お》しへされた
これ、この無残な蛙《かへる》を――
わたしの青白い肉を。
けれど蛙《かへる》は死なない、
びくびくと顫《ふる》ひつづけ、
次の刹那《せつな》に
もう直《す》ぐ前へ一歩、一歩、
裂けてはみだした膓《はらわた》を
両手で抱きかかへて跳ぶ、跳ぶ。
そして此《こ》の人間の蛙《かへる》からは血が滴《た》れる。
でも猶《なほ》心は見て見ぬ振《ふり》……
泣かうにも涙が切れた、
叫ぼうにも声が立たぬ。
乾いた心の唇をじつと噛《か》みしめ、
黙つて唯《た》だうろうろと※[#「足+宛」、第3水準1−92−36]《もが》くのは
人形だ、人形だ、
苦痛の弾機《ばね》の上に乗つた人形だ。
人生
被眼布《めかくし》したる女にて我がありしを、
その被眼布《めかくし》は却《かへ》りて我《わ》れに
奇《く》しき光を導き、
よく物を透《とほ》して見せつるを、
我が行《ゆ》く方《かた》に淡
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