て、
踊《をどり》を知れる肉なれば。
我が泣く日
たそがれどきか、明方《あけがた》か、
わたしの泣くは決まり無し。
蛋白石色《オパアルいろ》[#「蛋白石色」は底本では「胥白石色」]のあの空が
ふつと渦巻く海に見え、
波間《なみま》[#「波間」は底本では「波問」]にもがく白い手の
老《ふ》けたサツフオオ、死にきれぬ
若い心のサツフオオを
ありあり眺めて共に泣く。
また虻《あぶ》が啼《な》く昼さがり、
金の箔《はく》おく連翹《れんげう》と、
銀と翡翠《ひすゐ》の象篏《ざうがん》の
丁子《ちやうじ》の花の香《か》のなかで、
※[#「執/れっか」、66−下−13]《あつ》い吐息をほつと吐《つ》く
若い吉三《きちさ》の前髪を
わたしの指は撫《な》でながら、
そよ風のやうに泣いてゐる。
伊香保の街
榛名山《はるなさん》の一角に、
段また段を成して、
羅馬《ロオマ》時代の
野外劇場《アンフイテアトル》[#ルビの「アンフイテアトル」は底本では「アンフイテトアル」]の如《ごと》く、
斜めに刻み附《つ》けられた
桟敷|形《がた》の伊香保《いかほ》の街。
屋根の上に屋根、
部屋
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