しの声が彷徨《さまよ》つてゐるのは
森か、荒野《あらの》か、海のはてか……
ああ、どなたでも教へて下さい、
わたしの大事な貴《たふと》い声の在処《ありか》を。
自問自答
「我」とは何《なに》か、斯《か》く問へば
物みな急に後込《しりごみ》し、
あたりは白く静まりぬ。
いとよし、答ふる声なくば
みづから内《うち》に事《こと》問はん。
「我」とは何《なに》か、斯《か》く問へば
愛《あい》、憎《ぞう》、喜《き》、怒《ど》と名のりつつ
四人《よたり》の女あらはれぬ。
また智《ち》と信《しん》と名のりつつ
二人《ふたり》の男あらはれぬ。
われは其等《それら》をうち眺め、
しばらくありてつぶやきぬ。
「心の中のもののけよ、
そは皆われに映りたる
世と他人との姿なり。
知らんとするは、ほだされず
模《ま》ねず、雑《まじ》らず、従はぬ、
初生《うぶ》本来の我なるを、
消えよ」と云《い》へば、諸声《もろごゑ》に
泣き、憤《いきどほ》り、罵《のゝし》りぬ。
今こそわれは冷《ひやゝ》かに
いとよく我を見得《みう》るなれ。
「我」とは何《なに》か、答へぬも
まことあはれや、唖《おし》にし
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