》、
からさわぎの手風琴《てふうきん》、
鼻風邪を引いた手風琴《てふうきん》、
中風症《よい/\》の手風琴《てふうきん》……
いろんな手風琴《てふうきん》を鳴らさないで下さい、
わたしには此《この》夜中《よなか》に、
じつと耳を澄まして
聞かねばならぬ声がある……[#「……」は底本では「‥‥」]
聞きたい聞きたい声がある……
遠い星あかりのやうな声、
金髪の一筋《ひとすぢ》のやうな声、
水晶質の細い声……
手風琴《てふうきん》を鳴らさないで下さい。
わたしに還《かへ》らうとするあの幽《かす》かな声が
乱される……紛れる……
途切れる……掻《か》き消される……
ああどうしよう……また逃げて行つてしまつた……
「手風琴《てふうきん》を鳴らすな」と
思ひ切つて怒鳴《どな》つて見たが、
わたしにはもう声が無い、
有るのは真剣な態度《ゼスト》ばかり……
手風琴《てふうきん》が鳴る……煩《うる》さく鳴る……
柱も、電灯も、
天井も、卓も、瓶《かめ》の花も、
手風琴《てふうきん》に合せて踊つてゐる……
さうだ、こんな処《ところ》に待つて居ず
駆け出さう、あの闇《やみ》の方へ。
……さて、わた
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