》の馬の爛《たゞ》れて癒《い》ゆる間《ま》なき打傷《うちきず》と何《いづ》れぞ。
競馬の馬と、曲馬《きよくば》の馬と、
偶《たまた》ま市《いち》の大通《おほどほり》に行《ゆ》き会ひし時、
競馬の馬はその同族の堕落を見て涙ぐみぬ。
曲馬《きよくば》の馬は泣くべき暇《いとま》も無し、
慳貪《けんどん》なる黒奴《くろんぼ》の曲馬《きよくば》師は
広告のため、楽隊の囃《はや》しに伴《つ》れて彼を歩《あゆ》ませぬ……
夜の声
手風琴《てふうきん》が鳴る……
そんなに、そんなに、
驢馬《ろば》が啼《な》くやうな、
鉄葉《ブリキ》が慄《ふる》へるやうな、
歯が浮くやうな、
厭《いや》な手風琴《てふうきん》を鳴らさないで下さい。
鳴らさないで下さい、
そんなに仰山《ぎやうさん》な手風琴《てふうきん》を、
近所|合壁《がつぺき》から邪慳《じやけん》に。
あれ、柱の割目《われめ》にも、
電灯の球《たま》の中にも、
天井にも、卓の抽出《ひきだし》にも、
手風琴《てふうきん》の波が流れ込む。
だれた手風琴《てふうきん》、
しよざいなさの手風琴《てふうきん》、
しみつたれた手風琴《てふうきん
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