の腋《わき》に
革表紙《かはべうし》の金字《きんじ》の書物。
一人《ひとり》は肩の上に地球儀。
一人《ひとり》は両手に大きな竪琴《たてごと》。

わたしには何《な》んにも無い
わたしには何《な》んにも無い。
身一つで踊るより外《ほか》に
わたしには何《な》んにも無い。


    黒猫

押しやれども、
またしても膝《ひざ》に上《のぼ》る黒猫。

生きた天鵝絨《びろうど》よ、
憎からぬ黒猫の手ざはり。

ねむたげな黒猫の目、
その奥から射る野性の力。

どうした機会《はずみ》[#ルビの「はずみ」は底本では「はみ」]やら、をりをり、
緑金《りよくこん》に光るわが膝《ひざ》の黒猫。


    曲馬の馬

競馬の馬の打勝たんとする鋭さならで
曲馬《きよくば》の馬は我を棄《す》てし
服従の素速《すばや》き気転なり。

曲馬《きよくば》の馬の痩《や》せたるは、
競馬の馬の逞《たくま》しく美《うつ》くしき優形《やさがた》と異なりぬ。
常に飢《ひも》じきが為《た》め。

競馬の馬もいと稀《まれ》に鞭《むち》を受く。
されど寧《むし》ろ求めて鞭《むち》打たれ、その刺戟に跳《をど》る。
曲馬《きよくば
前へ 次へ
全250ページ中52ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング