ろ。
正月は唯《た》だ徒《いたづ》らに経《た》つて行《ゆ》く。
大きな黒い手
おお、寒い風が吹く。
皆さん、
もう夜明《よあけ》前ですよ。
お互《たがひ》に大切なことは
「気を附《つ》け」の一語《いちご》。
まだ見えて居ます、
われわれの上に
大きな黒い手。
唯《た》だ片手ながら、
空に聳《そび》えて動かず、
その指は
じつと「死」を[#「「死」を」は底本では「「死」と」]指してゐます。
石で圧《お》されたやうに
我我の呼吸《いき》は苦しい。
けれど、皆さん、
我我は目が覚めてゐます。
今こそはつきりとした心で
見ることが出来ます、
太陽の在所《ありか》を。
また知ることが出来ます、
華やかな朝の近づくことを。
大きな黒い手、
それは弥《いや》が上に黒い。
その指は猶《なほ》
じつと「死」を指して居ます。
われわれの上に。
絵師よ
わが絵師よ、
わが像を描《か》き給《たま》はんとならば、
願《ねがは》くば、ただ写したまへ、
わが瞳《ひとみ》のみを、ただ一つ。
宇宙の中心が
太陽の火にある如《ごと》く、
われを端的に語る星は、
瞳《ひとみ》にこそあれ。
前へ
次へ
全250ページ中49ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング