おお、愛欲の焔《ほのほ》、
陶酔の虹《にじ》、
直観の電光、
芸術本能の噴水。

わが絵師よ、
紺青《こんじやう》をもて塗り潰《つ》ぶしたる布に、
ただ一つ、写したまへ、
わが金色《こんじき》の瞳《ひとみ》を。


    戦争

大錯誤《おほまちがひ》の時が来た、
赤い恐怖《おそれ》の時が来た、
野蛮が濶《ひろ》い羽《はね》を伸し、
文明人が一斉に
食人族《しよくじんぞく》の仮面《めん》を被《き》る。

ひとり世界を敵とする、
日耳曼人《ゲルマンじん》の大胆さ、
健気《けなげ》さ、しかし此様《このやう》な
悪の力の偏重《へんちよう》が
調節されずに已《や》まれよか。

いまは戦ふ時である、
戦嫌《いくさぎら》ひのわたしさへ
今日《けふ》此頃《このごろ》は気が昂《あが》る。
世界の霊と身と骨が
一度に呻《うめ》く時が来た。

大陣痛《だいぢんつう》の時が来た、
生みの悩みの時が来た。
荒い血汐《ちしほ》の洗礼で、
世界は更に新しい
知らぬ命を生むであろ。

其《そ》れがすべての人類に
真の平和を持ち来《きた》す
精神《アアム》でなくて何《な》んであろ。
どんな犠牲を払う[#「払う」
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