き心余れども
児《こ》を養はんこと難《がた》し。
如何《いか》にすべきぞ、人に問ふ。


    正月

正月を、わたしは
元日《ぐわんじつ》から月末《つきずゑ》まで
大なまけになまけてゐる。
勿論《もちろん》遊ぶことは骨が折れぬ、
けれど、外《ほか》から思ふほど
決して、決して、おもしろくはない。
わたしはあの鼠色《ねずみいろ》の雲だ、
晴れた空に
重苦しく停《とゞま》つて、
陰鬱《いんうつ》な心を見せて居る雲だ。
わたしは断《た》えず動きたい、
何《なに》かをしたい、
さうでなければ、この家《いへ》の
大勢が皆飢ゑねばならぬ。
わたしはいらいらする。
それでゐて何《なに》も手に附《つ》かない、
人知れず廻る
なまけぐせの毒酒《どくしゆ》に
ああ、わたしは中《あ》てられた。
今日《けふ》こそは何《なに》かしようと思ふばかりで、
わたしは毎日
つくねんと原稿|紙《し》を見詰めてゐる。
もう、わたしの上に
春の日は射《さ》さないのか、
春の鳥は啼《な》かないのか。
わたしの内《うち》の火は消えたか。
あのじつと涙を呑《の》むやうな
鼠色《ねずみいろ》の雲よ、
そなたも泣きたかろ、泣きたか
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