始め得《う》ることを。
いとしき、いとしき我子等《わがこら》よ、
世に生れしは幸ひか、
誰《たれ》か之《これ》を「否《いな》」と云《い》はん。
いとしき、いとしき我子等《わがこら》よ、
今、君達のために、
この母は告げん。
君達は知れかし、
我等《わがら》の家《いへ》に誇るべき祖先なきを、
私有する一尺の土地も無きを、
遊惰《いうだ》の日を送る財《さい》も無きを。
君達はまた知れかし、
我等――親も子も――
行手《ゆくて》には悲痛の森、
寂寞《せきばく》の路《みち》、
その避けがたきことを。
親として
人の身にして己《おの》が児《こ》を
愛することは天地《あめつち》の
成しのままなる心なり。
けものも、鳥も、物|云《い》はぬ
木さへ、草さへ、おのづから
雛《ひな》と種《たね》とをはぐくみぬ。
児等《こら》に食《は》ません欲なくば
人はおほかた怠《おこた》らん。
児等《こら》の栄えを思はずば
人は其《その》身を慎まじ。
児《こ》の美《うつ》くしさ素直さに
すべての親は浄《きよ》まりぬ。
さても悲しや、今の世は
働く能《のう》を持ちながら、
職に離るる親多し。
いとし
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