に失望する。
そなたがやがて平凡な今日《けふ》に変り、
灰色をした昨日《きのふ》になつてゆくのを
いつも、いつもわたしは恨んで居る。
そなたこそ人を釣る好《よ》い香《にほひ》の餌《ゑさ》だ、
光に似た煙だと咀《のろ》ふことさへある。

けれど、わたしはそなたを頼んで、
祭の前夜の子供のやうに
「明日《あす》よ、明日《あす》よ」と歌ふ。
わたしの前には
まだまだ新しい無限の明日《あす》がある。
よしや、そなたが涙を、悔《くい》を、愛を、
名を、歓楽を、何《なに》を持つて来よう[#「よう」は底本では「やう」]とも、
そなたこそ今日《けふ》のわたしを引く力である。


    肖像

わが敬《けい》する画家よ、
願《ねがは》くは、我がために、
一枚の像を描《ゑが》きたまへ。

バツクには唯《た》だ深夜の空、
無智と死と疑惑との色なる黒に、
深き悲痛の脂色《やにいろ》を交ぜたまへ。

髪みだせる裸の女、
そは青ざめし肉塊とのみや見えん。
じつと身ゆるぎもせず坐《すわ》りて、
尽きぬ涙を手に受けつつ傾く。
前なる目に見えぬ無底《むてい》の淵《ふち》を覗《のぞ》く姿勢《かたち》。

目は疲れてあり
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