、
絵筆を把《と》れど色が出ぬ、
わたしの窓に鳥が来《こ》ぬ、
空には白い月が死ぬ。
×
あの白鳥《はくてう》も近く来る、
すべての花も目を見はる、
青い柳も手を伸べる。
君を迎へて春の園《その》
路《みち》の砂にも歌がある。
×
大空《おほそら》ならば指ささん、
立つ波ならば濡《ぬ》れてみん、
咲く花ならば手に摘まん。
心ばかりは形無《かたちな》し、
偽りとても如何《いか》にせん。
×
人わが門《かど》を乗りて行《ゆ》く、
やがて消え去る、森の奥。
今日《けふ》も南の風が吹く。
馬に乗る身は厭《いと》はぬか、
野を白くする砂の中。
×
鳥の心を君知るや、
巣は雨ふりて冷ゆるとも
雛《ひな》を素直に育てばや、
育てし雛《ひな》を吹く風も
塵《ちり》も無き日に放たばや。
×
牡丹《ぼたん》のうへに牡丹《ぼたん》ちり、
真赤《まつか》に燃えて重なれば、
いよいよ青し、庭の芝。
ああ散ることも光なり、
かくの如《ごと》くに派手なれば。[#「なれば。」は底本では「なれば、」]
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閨《ねや》にて聞けば[#「聞けば」は底本では「聞けは」]朝の雨
半
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