痩《や》せて此頃《このごろ》おもざしの
青ざめゆくも水ゆゑか。
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つと休らへば素直なり、
藤《ふぢ》のもとなる低き椅子《いす》。
花を透《とほ》して日のひかり
うす紫の陰影《かげ》を着《き》す。
物みな今日《けふ》は身に与《くみ》す。
×
海の颶風《あらし》は遠慮無し、
船を吹くこと矢の如《ごと》し。
わたしの船の上がるとき、
かなたの船は横を向き、
つひに別れて西ひがし。
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笛にして吹く麦の茎、
よくなる時は裂ける時。
恋の脆《もろ》さも麦の笛、
思ひつめたる心ゆゑ
よく鳴る時は裂ける時。
×
地獄の底の火に触れた、
薔薇《ばら》に埋《うづ》まる床《とこ》に寝た、
金《きん》の獅子《しし》にも乗り馴《な》れた、
天《てん》に中《ちう》する日も飽《あ》いた、
己《おの》が歌にも聞き恍《ほ》れた。
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春風《はるかぜ》の把《と》る彩《あや》の筆
すべての物の上を撫《な》で、
光と色に尽《つく》す派手。
ことに優れてめでたきは
牡丹《ぼたん》の花と人の袖《そで》。
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涙に濡《ぬ》れて火が燃えぬ。
今日《けふ》の言葉に気息《いき》がせぬ
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