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泥の郊外、雨が降る、
濡《ぬ》れた竈《かまど》に木がいぶる、
踏切番が旗を振る、
ぼうぼうとした草の中
屑屋《くづや》も買はぬ人の故《ふる》。
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指のさはりのやはらかな
青い煙の匂《にほ》やかな、
好きな細巻、名はDIANA《デイアナ》。
命の闇《やみ》に火をつけて、
光る刹那《せつな》の夢の華。
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青い空から鳥がくる、
野辺《のべ》のけしきは既に春、
細い枝にも花がある。
遠い高嶺《たかね》と我がこころ
すこしの雪がまだ残る。
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槌《つち》を上げる手、鍬《くは》打つ手、
扇を持つ手、筆とる手、
炭をつかむ手、児《こ》を抱く手、
かげに隠れて唯《た》だひとつ
見えぬは天をゆびさす手。
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高い木末《こずゑ》に葉が落ちて
あらはに見える、小鳥の巣。
鳥は飛び去り、冬が来て、
風が吹きまく砂つぶて。
ひろい野中《のなか》の小鳥の巣。
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人は黒黒《くろぐろ》ぬり消せど
すかして見える底の金《きん》。
時の言葉は隔《へだ》つれど
冴《さ》ゆるは歌の金《きん》の韻。
ままよ、暫《しばら》く隅《すみ》に居ん。
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いつか大きくなるままに
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