が消える、武蔵野の
砂を吹きまく風の中、
人も荷馬車も風の中。
すべてが消える、金《きん》の輪の
太陽までが風の中。
    ×
花を抱きつつをののきぬ、
花はこころに被《かぶ》さりぬ。
論じたまふな、善《よ》き、悪《あ》しき、
何《なに》か此《この》世に分《わか》つべき。
花と我とはかがやきぬ。
    ×
凡骨《ぼんこつ》さんの大事がる
薄い細身の鉄の鑿《のみ》。
髪に触れても刄《は》の欠ける
もろい鑿《のみ》ゆゑ大事がる。
わたしも同じもろい鑿《のみ》。
    ×
林檎《りんご》が腐る、香《か》を放つ、
冷たい香《か》ゆゑ堪《た》へられぬ。
林檎《りんご》が腐る、人は死ぬ、
最後の文《ふみ》が人を打つ、
わたしは君を悲《かなし》まぬ。
    ×
いつもわたしのむらごころ、
真紅《しんく》の薔薇《ばら》を摘むこころ、
雪を素足で踏むこころ、
青い沖をば行《ゆ》くこころ、
切れた絃《いと》をばつぐこころ。
    ×
韻がひびかぬ、死んでゐる、
それで頻《しき》りに書いてみる。
皆さんの愚痴、おのが無智、
誰《た》れが覗《のぞ》いた垣の中《うち》、
戸は立てられぬ人の口。
   
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