は》かにも
初心《うぶ》な涙の琵琶《びは》のおと。
高い軒《のき》から、明方《あけがた》の
夢に流れる琵琶《びは》のおと。

二月の雨のしほらしや、
咲かぬ花をば恨めども、
ブリキの樋《とひ》に身を隠し、
それと云《い》はずに琵琶《びは》を弾く。


    秋の柳

夜更《よふ》けた辻《つじ》の薄墨の
痩《や》せた柳よ、糸やなぎ。
七日《なぬか》の月が細細《ほそほそ》と
高い屋根から覗《のぞ》けども、
なんぼ柳は寂《さび》しかろ。
物思ふ身も独りぼち。


    冬のたそがれ

落葉《おちば》した木はY《ワイ》の字を
墨くろぐろと空に書き、
思ひ切つたる明星《みやうじやう》は
黄金《きん》の句点を一つ打つ。
薄く削つた白金《プラチナ》の
神経質の粉雪よ、
瘧《おこり》を慄《ふる》ふ電線に
ちくちく触《さは》る粉雪よ。


    惜しき頸輪

我もやうやく街に立ち、
物|乞《こ》ふために歌ふなり。
ああ、我歌《わがうた》を誰《た》れ知らん、
惜しき頸輪《くびわ》の緒《を》を解きて
日毎《ひごと》に散らす珠《たま》ぞとは。


    思《おもひ》は長し

思《おもひ》は長し、尽き難
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