桃の花
花屋の温室《むろ》に、すくすくと
きさくな枝の桃が咲く。
覗《のぞ》くことをば怠るな、
人の心も温室《むろ》なれば。
杯《さかづき》
なみなみ注《つ》げる杯《さかづき》を
眺めて眸《まみ》の湿《うる》むとは、
如何《いか》に嬉《うれ》しき心ぞや。
いざ干したまへ、猶《なほ》注《つ》がん、
後《のち》なる酒は淡《うす》くとも、
君の知りたる酒なれば、
我の追ひ注《つ》ぐ酒なれば。
日和山《ひよりやま》
鳥羽の山より海見れば、
清き涙が頬《ほ》を伝ふ。
人この故を問はであれ、
口に云《い》ふとも尽きじかし。
知らんとならば共に見よ、
臥《ふ》せる美神《※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ニユス》の肌のごと
すべて微笑《ほゝゑ》む入江をば。
志摩の国こそ希臘《ギリシヤ》なれ。
春草《しゆんさう》
弥生《やよひ》はじめの糸雨《いとさめ》に
岡《をか》の草こそ青むなれ。
雪に跳《をど》りし若駒《わかごま》の
ひづめのあとの窪《くぼ》みをも
円《まろ》く埋《うづ》めて青むなれ。
二月の雨
あれ、琵琶《びは》のおと、俄《に
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