《こ》の間《ま》の鳥よ、呼ぶ勿《なか》れ、
汝《な》れは固《もと》より羽《はね》ありて
枝より枝に遊びつつ、
花より花に歌ふなり。

すべての物よ、呼ぶ勿《なか》れ、
われは変らぬ囁《さゝや》きを
乏しき声にくり返し
初恋の巣にとどまりぬ。


    人の言葉

善《よ》しや、悪《あ》しやを言ふ人の
稀《まれ》にあるこそ嬉《うれ》しけれ、
ものかずならで隅にある
わが歌のため、我《わ》れのため。

いざ知りたまへ、わが歌は
泣くに代へたるうす笑ひ、
灰に著《き》せたる色硝子《いろがらす》、
死に隣りたる踊《をどり》なり。

また知りたまへ、この我《わ》れは
春と夏とに行《ゆ》き逢《あ》はで、
秋の光を早く吸ひ、
月のごとくに青ざめぬ。


    闇に釣る船
[#地から3字上げ](安成二郎氏の歌集「貧乏と恋と」の序詩)

真黒《まつくろ》な夜《よる》の海で
わたしは一人《ひとり》釣つてゐる。
空には嵐《あらし》が吼《ほ》え、
四方《しはう》には渦が鳴る。

細い竿《さを》の割に
可《か》なり沢山《たくさん》に釣れた。
小さな船の中《なか》七分《しちぶ》通り
光る、光る、銀白《ぎんぱく
前へ 次へ
全250ページ中216ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング